霧が晴れるまで
霧・・・森が霧に包まれる時、あの人が来てくれる。ニッコリと微笑みながら、ゆっくり歩いて来る・・・
時にはジャケットのポケットに小さな花束を入れて・・・(劇中セリフより)。 幻想的なラブストーリーです。
Drama 8 >>> ラジオドラマとして聞く
《キャスト紹介》
男・須藤 篤志・・・
ピアニストを目指してる。心優しきロマンチスト。
女・相原 香織・・・
篤志の恋人だった。桜井幸子タイプ。
女N :霧・・・森が霧に包まれる時、あの人が来てくれる。
ニッコリと微笑みながら、ゆっくり歩いて来る・・・
時にはジャケットのポケットに小さな花束を入れて、
ちょっと照れながら渡してくれたりする。
「ごめんね、あまり来れなくて」ちょっとシャイに言訳をする彼。
そんな優しい彼が好き・・・でも、
彼の優しさに甘えるのも今日が最後にしよう・・・
悲しいけれど、最後にしよう・・・
S E 草を踏み分け歩いてくる足音
男 :香織・・・
女 :篤志さん・・・
男 :久しぶり。
女 :やっぱり来てくれたのね。嬉しいわ。
男 :今日はいい知らせがあるんだ。
女 :なにかしら?
男 :ジャーン!
女 :トロフィー?
男 :ああ、3位入賞。
女 :すごいわ!おめでとう。
男 :でも全国大会に出場出来るのは上位2名なんだ。
全国大会にはいけなかった。
女 :3位でも立派なものよ。
男 :香織なら十分全国大会、いや世界にまで行けたのに・・・
女 :そんなことないわ。
男 :香織のためにもっとがんばりたかったけど・・・
女 :十分だわ、篤志さん。心のこもった演奏曲をありがとう。
男 :え?
女 :ラフマニノフの「ピアノコンチェルト協奏曲第二番」・・・
私の一番好きだった曲を弾いてくれて・・・
男 :どうしてそれを知ってるの?
女 :演奏前に祈るように言ってくれたでしょう
「香織聞いていてくれよ」って・・・
男 :来てたの、会場に?
女 :第一楽章モデラートは華麗に優雅に。
第二楽章アダージョ、ここはすごくロマンチックに。
第三楽章アレグロは軽やかにテンポよく・・・すごくよかったわ。
男 :ほんと?
女 :ええ、感激のあまり涙が出ちゃったもん。
篤志さん、本当にありがとう・・・
男 :そうか、よかった。
女 :すこし歩きましょうか?
男 :うん。
S E 小鳥のさえずりなど
男 :小学校の頃、帰り道にいつも奇麗なピアノの曲が
聞こえてくる家があった。
俺はよく立ち止まってその曲を聞いていたんだ。
女 :うん。
男 :6年生の時、コーラス大会で香織がピアノ伴奏することになった。
そのピアノを聞いた時すぐに分かったんだ。
あ、この子だったんだって。
女 :篤志さん、ずっと私の横で見てたわね。
黙って、ずっといつまでもいつまでも。
男 :不思議だったんだよ。
どうして両方の手であんな器用に鍵盤を叩けるんだろうって。
それであんまり見てるもんだから、香織言ってくれたよな。
弾いてみるって。
女 :ええ・・・
男 :音楽の素晴らしさを教えてくれてありがとう、香織。
女 :教えたなんて・・・
男 :香織ならきっと世界に通用するピアニストになれたろうに。
女 :その分篤志さんががんばって、ね。
男 :俺は香織ほど才能がないよ。
女 :そんなことないわ。篤志さんだったら大丈夫よ。
男 :香織・・・
女 :真理ちゃんとは仲良くやってる?
男 :ああ・・・
女 :彼女、いい子よ。
男 :うん。
女 :そろそろちゃんと付合ってあげて。
男 :え?
女 :彼女、篤志さんの事を本当に思ってるのよ。
男 :・・・
女 :篤志さんも分かってるでしょ。
男 :彼女は、香織の親友だったんだゼ。
女 :だから安心できるの。
男 :俺は・・・
女 :もういいの・・・
男 :え?
女 :もう十分よ。もう私に気を使わなくっても大丈夫。
もう篤志さんに甘えたりしないから・・・
男 :香織・・・
女 :だから、もう会いに来てくれなくても平気よ。
その分、真理ちゃんを大切にしてあげて。
男 :俺は香織を・・・
女 :篤志さんのことは忘れない。
篤志さんにしてもらった優しさも
思い出として心の中に大切にしまっておきます。
篤志さんもそうして。でも、過ぎ去った悲しみは忘れましょう。
男 :・・・
女 :悲しみは忘れないと、前に進めないわ。
ね、そうでしょう?
男 :ああ・・・
女 :今度は私が篤志さんを見守るわ、いつでもいつまでも・・・
男 :うん。
女 :篤志さん。
男 :なんだい?
女 :思い出をありがとう。
楽しかったいっぱいの思い出をありがとう。
男 :俺のほうこそ、ありがとう。
女 :真理ちゃんを愛してあげてね。
男 :うん、わかった。
女 :風が出てきたから霧が晴れていく。じゃ、もう行くね。
男 :香織・・・さようなら。
女 :さようなら、篤志さん。
男N :風が出てきたとたん、霧と共に香織が去って行ったような気がした。
ここへ来ると不思議に香織と会話をしたような気になる。
俺に音楽を教えてくれた香織。
俺が人生で最初に愛した女の子。
優しかった香織・・・
天才ピアニストと騒がれながら、あまりに早くに逝ってしまった・・・
相原香織、享年19才。
おわり
霧が晴れるまで
Story by ushi
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