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格子のある部屋

one_shot_10.jpg私立探偵のもとへ人探しの依頼が定期的にくる。探し出した人物の邸のすべての窓には格子があった。それは過剰に他人を疎外しての格子なのか、あるいは・・・

Maked by Mugen     >>> ラジオドラマとして聞く

 

 


島田 :(N)すべての事実を知ったのは、薄れいく記憶の中で、
       自分の右腕が徐々に切断されていくのを見た時だった・・・


          S・E 電話の呼び出し音


島田 :はい、島田探偵事務所です。
飯田 :(老人特有の咳き込み)失礼、飯田ですが、今回はどうでした?
島田 :今回も違いましたね。
飯田 :そうか。では次の住所を送るのでいつも通りでよろしく。
    調査費用もいつも通りの君の講座に振り込んでおくから。
島田 :承知しました。
飯田 :よろしく。


          S・E 受話器を置く音


島田 :(N)この老人の依頼は、2ヶ月ほど前からはじまった。
    ある人間を探しているらしく、いつも電話で指示された住所に行き
    当人がいるかどうかを確かめる。
    仕事はいたって簡単であり、捜査費もきっちり振り込んでくれるので
    これほど楽な仕事もない。


          S・E 砂利道をバスが走る音


島田 :(N)行き先はいつも驚くほどの僻地だった。
    今回もそのようだ。なんでも探している当人は極度の人間不信であり
    変コツらしい。でも依頼者の飯田さんにとっては同じ足の障害を持つ
    古い友人らしいのだ。どうしても探して会いたいらしいが、足が不自
    由なので自分で探すことは出来ず、俺に依頼してきたようだ。
    実際飯田さんには電話だけで、会ったこともないが支払いは約束通り、
    それも前金でしてくれるので上得意というところ。
    たまにはこういう美味しい仕事もないと。


          S・E 舗装されてない道を歩き続ける音


島田 :(N)飯田さんが探してる人は、人間不信が強まり家の窓という窓には
    格子を入れているらしい。
    それを探す目印にしてくれと言われている。
    まあ俺も仕事柄、変わった人種には嫌というほど会ってるので、
    多少のことでは驚かない。別にどんな人間でもいいのだ。
    探し出すだけが仕事なので、後のことやその人間がどうのこうのは
    俺には関係ない。


          S・E 立ち止まる足音


島田 :あったぜ・・・。確かに窓という窓には格子が入ってる。
    でも、すげえ家だな。家というより洋館って感じか・・・


          S・E ドンドンドンとノックをする音


島田 :畑野さんッ!開けてください!
飯田 :(N)彼は極度の人嫌いだから簡単には会えないかもしれない。
    (咳き込む)失礼、でもワシの名前を言えば必ず会える。

島田 :畑野さん、わたしは飯田さんに頼まれて来た者です!
    飯田さんが、あなたを探してるんですよ!
    あなたの古い友人の飯田さんです!


          S・E 間を置いてから重い木製のドアが開く音


畑野 :飯田とは、飯田光蔵のことか?
島田 :ハイ、そうです。飯田さんに頼まれて来た島田と申します。
畑野 :そうか・・・あいつに頼まれて来たのか・・・


          S・E 板張りの中を歩く靴音


畑野 :6ヶ月ぶりだ。
島田 :は?
畑野 :人間に会うのがな。
島田 :そ、そうですか。
畑野 :車椅子のおいぼれなど、世間に出てもなんら役にもたたんだろ。
島田 :そんなこともないでしょうけど。
畑野 :メシでも喰うか?
島田 :いえ、わたしはあなたの所在を確認しに来ただけです。
    依頼人の飯田さんにご報告する後の仕事もありますから。
畑野 :彼の連絡先を教えてくれたら後でワシから連絡をする。
    礼と共に。6ヶ月も人と喋ってないと言葉も忘れそうになる。
島田 :(笑って)それではお言葉に甘えようかな。
    実際おなかも空いてますので。


島田 :(N)なんだ、聞いてたほど変人でもなそうじゃないか。
    身なりもよく金持ちそうだ。仲良くしていれば、
    また仕事を貰えるかもしれない。こういう人種は金に糸目を
    つけないのでいい客となる。適当に好かれるようにしとこう。


島田 :うまいッ!滅茶苦茶美味しいですね、この料理。
畑野 :人に手料理をご馳走するのは、それこそ何年ぶりかだ。
島田 :昔、コックさんとかしてたんですか?
畑野 :別に。
島田 :それにしても美味しいですよ。フォアグラっていうヤツですか、コレ?
畑野 :・・・
島田 :でも、お独りだと寂しくなるでしょう。
畑野 :別に。
島田 :何か趣味なんかを楽しんでるんでしょうか?
畑野 :そうかもしれん。
島田 :趣味は、なんですか?
畑野 :別に、大したもんじゃない。
島田 :音楽とか、映画とか?
畑野 :音楽は聞かん。映画は数年前に観た限りだ。
    でも、内容的に監督が勉強不足だったので(咳き込む)失礼、興ざめした。
島田 :専門的な見方をするとは、映画にお詳しいんですね。
    ひょっとして昔映画のお仕事をしてたとか。
畑野 :"人食い"の映画だった。
島田 :ヒトグイ?・・・ああ、一時話題になった映画ですね。
    僕も観ましたけど、迫力ありましたね。
    でも僕はああいうの苦手なんです、実は。
畑野 :映画での殺人や、猟奇なんてのはリアリティがない。
    みんな勉強不足だ。もっとも経験した者がないので当然だろうけど。
    (咳き込む)失礼。
島田 :画面で観るのと、実際ではだいぶ違うものなんですか?
畑野 :人間ってのは、なかなか殺そうとしても実際死ぬもんじゃない。
島田 :あッ・・・
畑野 :わかるかね、キミ?(咳き込む)
島田 :て、手が・・・
畑野 :カニバリズムという言葉を知ってるかね?
島田 :(苦しげに)て、手が・・・


          S・E ナイフとフォークを落とす音


畑野 :わたしには若い時から憧れた性癖があったね。(咳き込む)失礼。
島田 :(喘ぐ声)
畑野 :喋りつらそうだね。なら、わたしが話し続けよう。
    そうだ、先ほどキミは映画の話もしたね。
    キミも観たというその映画には、人間の脳を食べる場面も出てくる
    が脳というのはあんな鼠色みたいな色じゃないんだ。
    もっと人肌に近くてね、細い血管が浮き立てるんだ。
    それは美しいもんだよ。(不気味な笑い)


          S・E 椅子の倒れる音


畑野 :どこへ行くんだい?まだ料理が残ってるよ。
    もっともキミの料理には特別なスパイスを利かせたから、
    喉が渇いたのかね?ワインならボルドーの特上のもがあるけどどうだね?
島田 :(搾り出す声で)た、助けてくれッ!・・・
畑野 :映画の話を続けよう。あの映画の主人公は五体満足だ。
    羨ましかったよ。それに比べわたしは足が少々不便で車椅子を使っている。
    映画の主人公みたいに街に出掛けて獲物を獲れない。
    でも、私もあの主人公同様頭は回る方だ。
    こちらが行けないなら、来てもらえばいい。
    それだけのことだ。(咳き込む)失礼。


S・E 冒頭のシーンでの会話(主人公の回想)
飯田 :(老人特有の咳き込み)失礼、飯田ですが、今回はどうでした?


島田 :あ、あんたは・・・


          S・E 自由が利かなくなった体で倒れながら逃げる音


畑野 :どうしたんだい、食後の運動かね?ああ、そっちに行っても出れないよ。
    この家の窓にはすべて格子が入ってるからね。
    キミに最初に言ってあるだろう。無駄な努力だよ。
島田 :あう、あうッ(もがく呻き声)
畑野 :人間はなかなか死なないものだと言ったろ。
    どうだい、自分の脳みそを味わってみないか、
    私と一緒にもう一度ディナーを楽しもう。
    私の一番好きな料理だから今度はわたしも饒舌になると思うよ。
    (不気味な笑い)


          S・E チェーンソーの回転の音


島田 :(エコーを効かせた絶叫)


          S・E ブリッジ音
              間を十分においてから電話のベル


声  :(女性)ハイ、帝国調査事務所です。
飯田(畑野) :少し探して欲しい人間がいるのだけど(咳き込む)失礼。
        お願い出来るかね?

 

          BGM 内容にふさわしい曲がせり上がってくる

 

おわり


格子のある部屋
Story by ushi

 

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