未来的愛玩具
恋人をベットで待つ清水勇一。
女はシャワーを浴びている。
清水はこれからの情事に胸躍らす。
コンピュータ科学の進歩した未来。こういうワンシーンも見られるのではないでしょうか。
ベッドの下半分が、玄関口のシャワールームから洩れる明りで照らされている。
部屋には少々広いセミダブルのベッドに、清水勇一は下半身だけにブランケットを掛けて仰向けに寝そべっている。
シャワールームからは女のハミングとも鼻歌ともつかないメロディが聞こえてくる。
その曲が何なのかを考えていたが、清水にはわからない。
わからないというよりも、今からはじまる事の成行きを考えて神経が集中しないのだ。
シャワーの音が止まった。
ハミングは依然続いている。
シャワールームを仕切るスリガラス越しに人の動くシルエットだけが見える。
どうやら髪をブラッシングしているようだ。
その間も清水の知らないメロディは、シルエットの動きと共に艶かしく続いていた。
女の出てきそうな雰囲気で、清水は掛けていたメガネを取り脇のサイドボードに置いた。
普段はコンタクトを使用している。
こういう時はどんな仕草をしていれば良いものか。
煙草が吸えたら、ある程度は手持ち無沙汰を紛らわすことも出来るのに。
煙草を愛用しない清水は、いつもこういうシュチエーションでそう思う。
女がドアを開けて出てきた。バスタオル一枚を小柄な身体に巻きつけた、風呂上がりの定番の姿態だ。ふわりと温かいソープの香が漂ってきた。
清水は女のこの香が好きだった。
女はもうハミングを止めていた。
そのかわり彼に視線を向けて満面の笑顔で、左手を頭の後ろに回し右手を腰にあてがい、茶目っ気あるポーズを一瞬とった。
清水は少し苦笑いを見せて、ベットの左半分を開けた。女は笑顔で、ベッドに滑り込んで来た。女の顔が間近に迫った。
清水はしげしげと女の顔を見つめた。
じれったいというように女は清水の上半身に自分の上半身を覆いかぶせた。
こういう態勢も嫌いではないな、と女の体重を感じながら清水は思った。
女はなおも清水に自分の体重を乗せてきた。
豊満な彼女の胸が清水の胸板で押し潰されているのがわかる。
清水は自分の首筋に彼女の息を感じていた。
唇は迫り上がり清水の耳元まで来た。そして女は熱い吐息と共に男の名前を呼んだ
「カズオ・・・」
清水の動きが停止した。
女はかまわずさらに清水にしがみつこうとする。
すでに長年組み込まれた女のプログラミングを果たすように。
「ちょ、ちょい待っておくれやす!」と、清水は女から身を引いた。
女は強制終了されたPCのように動作が不安定になっている。
「どうしたの?」と声には怒った調子が混じっている。
清水はベッドから抜け出し、ハンガーに掛けていた上着から手帳を取り出すと、コードレスの受話器を手に取り、開いた手帳を眺めながら番号をプッシュした。
呼び出しを待つ間、女を見ると背中を向けてベッドに寝転がってフリーズしている。
3回目のコールで威勢の良いハイトーンな声が出た。
「ありがとうございます。今夜のあなたの愛玩具店、担当のタナカです!」聞きなれた声だ。
「清水と申しますが・・・」
「あ、清水様。いつもご利用ありがとうございます!」
声の主はテンションを落とさなかった。
「先ほど、レンタルした愛玩具なんですけどデータが前の人の名前のままで、フリーズしちゃったんですけど」
「それは申し訳ありませんでした。
データのリセットは愛玩具の顔面を思いっきりパンチしてください。
少々の虐待にも耐え得る構造になっておりますのでご心配いりません。
そういう趣味のお客様もおられますので。
今後ともあなたの夜のお供、ヒューマノイド型愛玩具店をよろしくお願いします」
おわり
未来的愛玩具
Story by ushi
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