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遅すぎたスナイパー

onescene_8.jpg日本国籍で、コードナンバー"スロー"と呼ばれるスナイパー。

彼のすべての動きは計算尽くされた機械のように正確なため、そう呼ばれるようになったのかは定かではない。

今日も彼は獲物を狙う・・・

 

 

 

スイス軍レザートランクケース(サイズは28×41×15)。真ん中から左右に大きく開くタイプだが、カバンの片方を常用にし、もう片方を銃のキャリアとして改造してある。銃すべてのパーツを合わせるとゆうに10kgは超す重さである。

男はそのケースを足元に静かに置いた。
ここはビルの8階に位置する屋上である。

男は黒皮製の手袋をした手で、サングラスを外した。光が反射して相手に狙撃位置を悟られぬため、ガラスや金属製の物にはとくに神経を使う。そして太陽光の角度を確かめる。狙撃時間になってもロケーションの中に反射して狙撃の障害になるものがないか用心深く確かめた。

彼の日本国籍名は小川友二。しかしその本名で呼ばれることはなく、コードネームの"スロー"でその世界には通っている。彼のすべての動きは計算尽くされた機械のように正確なため、そう呼ばれるようになったのかは定かではない。

スローは腕にある時計で時間を確かめた。狙撃時間までにはおよそ一時間ある。一時間後の目の前にあるこのホテルの前で起こる惨事を想像した。

そして狙撃後の逃亡ルートを頭の中で再度描いてみた。狙撃前にいつも彼が行なうシュミレーションである。すべてが完璧であった。

スローは黒皮のコートを脱いだ。

愛用のベレッタM92FSのコンプ(E.A.A.のコンペンセイター)付きのカスタムが胸にクロスされて、ビアンキ社のX15というショルダーホルスターがベースの特製革ベストに収められている。今日の仕事にはベレッタは必要はない。

今日の主役はM16カスタム。スコープはバトラークリークのキャップを付けて、ハリス社のバイポットで構成されているものだ。

スローはレザートランクケースからM16カスタムを取り出し、スコープをセットする。目標が到着するであろう、エントランスホールに照準を合わせる。

狙撃は1発で相手の動きを止め、2発目でとどめを刺す。そして狙撃個所は顔は撃っていけない。人物を確定出来ないと報酬が得られないからだ。すでに身体で憶えていることだが、毎回の仕事の前には自分に言い聞かす。

完璧な仕事は完璧な訓練と、完璧なイメージの繰り返しにより完結する。それがスローのプロとしての信念であった。彼は頭の中で狙撃時のイメージを繰り返した。果てることなくそのイメージの繰り返しは続いた。

そして太陽の翳りにより、およそ一時間が過ぎたのを知った。

M16カスタムを彼独自に編み出した構えにより、腹ばいの姿勢で狙撃ポジションをとった。胸の高鳴りはない。数知れずの実績により平常心で、狙撃が出来る。

いよいよスローはスコープから、狙撃目標となる位置を見据えた。彼のプロとしての直感が、今日も目標を外すことがないことを知った。

スコープの先には5、60人のSPやら警察官が蠢く。目標の大物らしさが伺い知れる。さらにスローはスコープから辺りの様子を伺った。目標の進入ルートに変更がなければ右ゲートより、黒塗りの大型乗用車で現れるはずだ。そしてルートの変更は今朝の時点で聞いていない。

「まだか」時間の経過が長く感じた。やはり張り詰めた神経に時間の観念が長くなっている。と、その時スローは辺りの異変に気が付いた。

護衛の警察官には緊張の気配がない。スローは狙撃の体勢を崩さずに待った。さらに護衛の警察官達は、にこやかに散在して行く。そして中には車に乗り込み、この場から去るものもある。しかしスローはけっして狙撃姿勢を崩さなかった。

20分はたったろうか。護衛の警官達もすでに残るは3、4人となっていた。しかしスローはけっして構えた狙撃体勢を崩そうとはしなかった。

そしてスローは最後に残されたSPが交わす言葉を微かに聞いた。「お疲さん。もういいだろう。すでに大統領もくつろいでいることだろう。暗殺の噂も出ていたが何事もなくよかった。後は通常の警備体制に戻る」最後の二人のSPも左右に分かれて、そこにはロビー前に佇むベルボーイだけが残っていた。

そしてまた長い時間が流れた。

スローはゆっくり過ぎる動作で身体を起こした。左腕の時計を見た。この場所に来てすでに2時間が経過している。

スローは暫く立ちつくしていたが、やはりゆっくりした動作で愛用のM16カスタムをレザートランクケースにしまった。この時の動作もかなりゆっくりしたものだった。

来た時と同じように黒皮のコートを着た。10kgのレザートランクケースを左に持つとゆっくりとした足取りで、先程何回となくイメージした逃走ルートを見るからに重そうな足取りで歩いて行った。

ビルの階段ゲートへと入る動作は、さらにゆっくりとした緩慢なものだった。頭の中で逆算すると、彼がイメージトレーニングをしてる間にどうやら目標の人物はホテルへ無事に入ったらしい。彼の緻密な脳細胞は、かなりの時間を費やしそう答えをはじき出した。

日本国籍で小川友二と呼ばれ、コードナンバー"スロー"と呼ばれるスナイパー。あまりにも緩慢な動きのため、よく狙撃目標を見逃す。だからコードネームは"スロー"。狙撃の腕は確かにプロ中のプロ。

ただ彼が直感で得た、目標を外すことがないというインスピレーションだけは今日も当たっていた。なぜなら撃たなければ、けっして外れることがないのだから。

おわり

遅すぎたスナイパー
Story by ushi

 

 

タグ : ショートストーリー , ドラマ , 牛のドラマシアター , 小説

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