来なかった待ち人
ホラー番組を書くことになったライターが幽霊を頻繁に見るという少女にインタビューをする。その少女が見る幽霊とは1年前に自分が海で殺した親友なのだと語る。そしてその霊は1年後に彼女を...
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(PLAY1)
マスター :おかわりをお作りしましょうか?
男性客 :そうだな、お願いします。
マスター :同じものでよろしいでしょうか?
男性客 :なにか、さっぱりする・・・そうだ、トム・コリンズを。
マスター :かしこまりました。
S E ドリンクを作る音。
マスター :お待たせしました。
男性客 :ありがとう。
マスター :お仕事が終り、ホッと一息ですか?
男性客 :いえ、これからで頭を抱えています。
マスター :新しい作品の構想中ですか?
男性客 :ええ、今度夏の特番でホラー特集をやるんです。その台本
を書かなければいけないんですけどね。
マスター :恐怖物?
男性客 :そうなんですよ。でも僕は恐怖体験とか霊体験ってやつが
1つもないんですよ。マスターはお化けご覧になったこと
ってあります?
マスター :残念ながらありません。
男性客 :そうですか。一度でも見たらイメージが湧くのに、出てき
て貰いたい人には姿を見せてくれないもんなんですねかね?
マスター :さあ、どうでしょう。
男性客 :困った挙げ句友人に電話しまくって、やっと幽霊をよく見
るという少女を紹介して貰えたのですよ。
マスター :では、これから取材ですか?
男性客 :ええ、マスターもよければ一つお話を聞いておけばいかが
です?暑さしのぎに・・・
マスター :わたくしは・・・
男性客 :あ、ひょっとしてマスターは、苦手なんじゃないありませ
んか・・・(相手を怖がらせる声で)ユ?レイが!
(PLAY2)
S E ドアの開閉の音。
マスター :いらしゃいませ。
男性客 :あのー、松本さんでいらっしゃいますか?
女性客 :はい・・・
男性客 :遅い時間にわざわざすみません。まあ、こちらへどうぞ。
女性客 :どうも・・・
男性客 :私、古永と申します。
女性客 :松本、久美です。
男性客 :なにかお飲物をどうぞ。
女性客 :わたし、アルコールは・・・
男性客 :じゃオレンジジュースでも?
女性客 :はい。
マスター :かしこまりました。
S E ドリンクを作る音。
マスター :お待たせしました。
男性客 :似合いますよ、そのブルーのワンピーズ。
女性客 :どうも・・・
男性客 :(マスターに)いや、初対面だから目印にブルーのワンピー
スを着て来て貰ったのです。
マスター :夏らしくとてもかわいいですよ。特に胸のリボンが。
女性客 :どうも・・・
男性客 :こんなかわいい子だったんなら、取材なんかやめちゃいた
くなるなあ。ねえ、マスター。
マスター :しっかりお仕事して下さい。
男性客 :あ、さっきの仕返しですね。まいったなー。と、空気も
和んだところで、早速ですけどお話し伺わせて貰えますか?
女性客 :はい・・・
男性客 :どんな体験でしょうか?
女性客 :ええ・・・
男性客 :結構ですよ。僕は商売柄多少どんな話しを聞いても平気です。
それとプライベートは絶対厳守しますから安心して、気楽に
喋って下さい。
女性客 :・・・
男性客 :大丈夫ですって、何を聞いても驚いたりしませんから、ね。
女性客 :・・・わたし、人を・・・殺したんです。
男性客 :(驚いて)ええッ!!!!!!
(PLAY3)
男性客 :ど、どうも失礼。今、なんて言われました?
女性客 :人を、殺したと・・・
男性客 :(落ち着こうと咳払い)よければ、最初から話してもらえま
せんか?
女性客 :わたしには幼い頃からの親友がいました。彼女の名前は鈴木
恵子。私達はとても仲良しで、顔の作りまで似ていたもので
すからよく近所の人に姉妹みたいだと言われてました。
小学校から高校まで同じ制服を着て、一緒に登校もしていま
した。
男性客 :なるほど。
女性客 :恵子は頭も良く素直でした。だから友達もたくさんいました。
男性客 :久美さんは?
女性客 :わたしは極度に人見知りするんです。だから友達も恵子に
紹介してもうことが多かったんです。
男性客 :性格が対照的だったんですね。
女性客 :ええ・・・
男性客 :それで?
女性客 :高校2年の時、恵子にバスケットボール部のマネージャーに
ならないかと誘われました。当時男子バスケット部にはマネ
ージャーがいなかったんです。それと・・・
男性客 :それと?
女性客 :恵子はバスケット部に好きな男の子がいました。大槻君と言
います。
男性客 :そのことを恵子さんは久美さんに話してくれたんですか?
女性客 :いいえ、でもすぐにわかりました。なんとなく・・・
男性客 :どうして話してくれなかったんでしょう?
女性客 :それは・・・たぶん恵子も気づいていたからかもしれません。
男性客 :あなたもその男の子が好きだったと。
女性客 :はい・・・
男性客 :それで?
女性客 :それで・・・あの、夏が来たんです・・・
(PLAY4)
男性客 :夏?
女性客 :ちょうど1年前の今日が・・・
男性客 :1年前の今日?
女性客 :バスケットの部員で海に行くことになり、私と恵子も誘わ
れました。最初恵子は嫌がりました。
男性客 :恥ずかしかったのかな?
女性客 :恵子は、泳げなかったのです。
男性客 :カンヅチだった?
女性客 :ふだん消極的なわたしがその時、はじめて恵子を強引に誘
ったのです・・・何かに心を突き動かされるように・・・
男性客 :うん・・・
女性客 :人気のある海岸は人が多いので、明石の向こうの江井ヶ島
という所へみんなで行きました。男の子達は元気に海へ出
ていましたが、泳げない恵子はずっと浜辺にいました。
恵子はその間、ずっと大槻くんを目で追ってました。たぶ
ん恵子は大槻くんに声を掛けて貰うのを待っていたんだと
思います。その数週間前から恵子と大槻くんはクラブの練
習が終ると一緒に下校してましたから・・・
男性客 :二人は付合いはじめていた?
女性客 :わたしは、苦しかったんです・・・恵子と大槻くんが一緒
にいるところを見るのが・・・とても・・・
男性客 :分かるよ君の気持ち。
女性客 :大槻くんが声を掛ける前に、わたし恵子を海に誘ったんです。
恵子はもちろん嫌がりましたが、腕を取り強引にゴムボート
に乗せて沖に出ました。テトラポットの外まで出た時・・・
わたし・・・
男性客 :どうしたのです?
女性客 :恵子の、背中を押しました・・・
男性客 :!
女性客 :恵子は・・・恵子は必死になって、わたしに手を差し出しま
した・・・
男性客 :・・・
女性客 :でも、わたし、ただ見ていたんです・・・ものすごく冷静に。
(PLAY5)
女性客 :恵子の死は事故死扱いされました。
男性客 :・・・
女性客 :わたしは、自分がしたことを理解するのに長い時間がかか
りました。
男性客 :うーん。
女性客 :お話したいのはここからです。不思議なことが起き出した
んです。
男性客 :不思議なこと?
女性客 :わたしの家の廊下や、部屋の一部が水でずぶ濡れになって
いることが度々起こりました。家族の者は不思議がりまし
た。でも、わたしはすぐにわかりました。
男性客 :?
女性客 :恵子が来たんだと。
男性客 :死んだはずの恵子さんが。
女性客 :一番最初は、浴槽の中に現われました。水脹れになった醜
い顔で、湯船の中からわたしを睨んでいたのです。

男性客 :まさか・・・
女性客 :その後も頻繁に恵子は現われて、わたしにこう言いつづけ
ました・・・
「来年のあの日に、必ず迎えに来るからね」と・・・
男性客 :来年のあの日ですか。
女性客 :ええ、恵子が死んだ日・・・
男性客 :まさか・・・
女性客 :今お話したことはすべて本当です。
男性客 :うーん。
女性客 :お疑いでしたら、どうか警察でお確かめ下さい。
男性客 :いえ、信じないという訳ではありません。とても迫力ある
お話でした。でも、ちょっと待って下さい。もし、今のお
話しが本当なら、今日は恵子さんの命日。恵子さんがあな
たを迎えに来ると言った日じゃありませんか。
女性客 :ええ、そうです。
(PLAY6)
男性客 :安心して下さい。もう12時はまわっています。恵子さんの
幽霊が言ってた日はもう過ぎました。きっと、久美さんの罪
の意識が生み出した幻覚だったのです。
女性客 :(急に我に返ったように)12時を過ぎている。
男性客 :どうかされましたか・・・
女性客 :帰ります・・・
男性客 :あ、ちょっと待って下さい。送りますから。
女性客 :結構です。友達がすぐそこまで迎えに来てくれてますから。
失礼します。
S E ドアの開閉の音。
男性客 :(ふーと一息)マスター、今の話しどう思われます。
マスター :不思議なお話ですね。
男性客 :僕は彼女は親友の事故死で、ノイローゼになっているんだと
思いましたね。いくら同じ男の子を好きになったからと言っ
て殺せますか、あんなにまだ幼い子が?
マスター :そうですね。
S E 電話のベルの音
マスター :もしもし・・・サンドリオンでございます・・・はい・・・
ちょっとお待ち下さい。お客様・・・お客様にお電話です。
男性客 :僕に?誰かの間違いでしょう。だって今日僕がここに来てい
るのは誰も知りませんよ。
マスター :警察の方からだと。
男性客 :もしもし・・・はい、古永は私ですが・・・そうです、確か
に古永浩章は自分です・・・え、はあ・・・え!!!!!!
まさか、本当ですか・・・で、いつのことです・・・・しか
し信じられません・・・・分かりました、すぐにお伺いしま
す・・・(受話器を切る)
マスター :どうされましたか?
男性客 :信じられないことですが・・・松本久美は死んだそうです。
マスター :さっきの女性が!
男性客 :もし、ついさっきここから出ていった子が確かに松本久美と
いう女性ならですが。
マスター :どういうことなのでしょう?
男性客 :松本久美は、10時12分にトラックにはねられて即死した
ようです。彼女の所持品に僕と会う約束の日と時間と、ここ
の電話番号があったそうです。
マスター :彼女がここへ来たのはたしか10時半くらいでした。
男性客 :警察が言うには・・・ブルーのワンピースを着ていたそうです。
マスター :まさか・・・
男性客 :そうですね・・・警察へ確認に行ってきます。もしも・・・
もしも警察が言う通り、死んだ子が僕たちが会っていた松本
久美だったら・・・まさかね、マスター・・・
マスター :でも・・・
男性客 :どうしました?
マスター :でも、彼女確かここを出る時に言ってましたね・・・
男性客 :な、なんて?
マスター :お友達がすぐそこまで迎えに来ていると・・・
おわり
来なかった待ち人
Story by ushi
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