シンデレラロード・第3話
婚約相手は神戸でも有数の実業家の御曹司。幼い頃から母と苦労だけで生きてきた香住華子にとって、それはまるで絵に描いたようなシンデレラストーリーだった。しかし婚約者との婚前旅行の夜、華子の運命を左右するシンデレラロードが用意されていた・・・(全3話)
Bar Cendrillon Series
《キャスト紹介》
女性客・香住華子(24才)・・・看護婦。伊藤寿浩の婚約者。
刑事 ・谷水康雄(35才)・・・生田署・捜査1課の刑事。
ヒョウヒョウとした性格。
マスター ・・・
(PLAY1)
S E ドアの開閉の音
マスター :いらしゃいませ。
刑 事 :こんばんわ。この間はお騒がせしましてどうもすみません。
マスター :いいえ・・・
刑 事 :あ、それはそうとこんな本を買いましてね。
マスター :カクテル教室・・・
刑 事 :ええ、この間マスターに作って頂いたあのカクテル、えー
と名前が・・・
マスター :シンデレラ・ロード・・・
刑 事 :ええ、それです。あんまり美味しかったもんですから、自
分でも作ろうと思いましてね。それが、どこを探しても無
いんですよ・・・
マスター :それは、オリジナル・カクテルだからです。
刑 事 :オリジナル?
マスター :ええ当店だけのものですから・・・
刑 事 :あ、そうだったんですか、マスターがお考えになった・・
・私って馬鹿だなあ・・・いくら探しても無いはずだ、お
恥ずかしい。
マスター :よければレシピをお教え致しましょうか?
刑 事 :よろしんですか、企業秘密ってヤツじゃないんですか?
マスター :いいえ、そんな大げさなものではありません。
刑 事 :いやあ恐縮です。マスターには色々教えて頂いて。
マスター :私は何も・・・
刑 事 :今回の事件解決のヒントもこの前頂きました。
マスター :(驚いて)私が?
刑 事 :ええ。
マスター :どのようなことを私が?
刑 事 :アレですよ。
マスター :時計・・・
(PLAY2)
S E ドアの開閉の音
マスター :いらしゃいませ。
刑 事 :わざわざすみません、こちらへどうぞ。
女性客 :どうも・・・
刑 事 :アレを彼女に作ってあげて貰えませんか?
マスター :はい?
刑 事 :さっきお話ししていたカクテルを・・・
マスター :かしこまりました。
S E ドリンクを作る音
女性客 :(緊張)捜査の方は、進んでますか?
刑 事 :はっきり言って、難しい事件です。いやあ参りました、お
まけに告訴までされちゃって・・・
女性客 :そうですか・・・
刑 事 :あなたにも度々ご迷惑をお掛けして申しわけないと思って
ます。でも・・・もうこれ以上お呼び出ししたりすること
はないと思いますので・・・
女性客 :(驚き)では事件が・・・
マスター :お待たせしました。
女性客 :これは・・・
刑 事 :ご存知ですね?
女性客 :シンデレラ・ロード・・・
刑 事 :そうです。あの夜事件があった日、あなたと伊藤さんがこ
こで最後にお飲みになったカクテルです。ご記憶ですね?
女性客 :ええ・・・
刑 事 :これをお飲みになって伊藤さんは急に酔いが回ったと言わ
れました・・・でもこのカクテルはそんなにきつい方じゃ
あない。むしろ女性好みに甘くさっぱりと出来てる。そう
じゃありませんか、マスター?
マスター :ええ・・・
刑 事 :だから急に酔いが回るとも思えません。ただ・・・何もこ
の中に混入されていなかったら・・・
(PLAY3)
刑 事 :混入物をマスターに後で見つけらないようにグラスを割っ
た・・・
女性客 :そんな・・・ただの憶測で、それに彼は本当にお酒が弱い
のよ!
刑 事 :すみません。ただの憶測です。次ぎに引っ掛かったのが時
間です。判らなかった・・・見事ですよ、全く。
女性客 :時間がどうしたんです?
刑 事 :伊藤さんは嘘の証言は確かにしてません。彼の言った時間
的なアリバイにも嘘はないと思います。
女性客 :(ほっと)ええ。
刑 事 :ただし、彼は虚構の時間を信じ込まされていたのです。
女性客 :虚構の時間・・・
刑 事 :そう、作られた時間ということです。
女性客 :絵空言の冗談でしょうか?
刑 事 :いいえ、私は真剣です。刑事としての進退問題を抱えてい
ますので・・・
女性客 :ではどういう事か説明して下さい。
刑 事 :犯行時間は午前零時から午前1時の間です。あなたは婚約
者の伊藤さんを車に乗せ10時過ぎにここを出た。そして11
時に別荘へ到着。そうですね?
女性客 :ええ。
刑 事 :そして伊藤さんの証言ではそれからはずっとあなたと一緒
に過ごした。犯行時間にはあなたは婚約者と楽しい時間を
過ごしていた。そして午前1時にあなたはこのバーへ電話
している。そうですね?
マスター :はい・・・
刑 事 :これが概略です。あなたが作りあげた虚構の時間の・・・
(PLAY4)
刑 事 :問題解決の鍵は時計でした。それも止まった時計・・・
女性客 :止まった時計・・・
刑 事 :事実はこうです。あなたは最後のカクテルに睡眠薬を混ぜ
て婚約者の伊藤さんに飲ませた。あなたは看護婦だからそ
の辺は入手も知識も完全だった。おそらく確実に6時間か
ら8時間昏睡するものを慎重に選んだんだと思います。
別荘に着いたときは伊藤さんは深い眠りに就いていた。あ
なたは予め用意していたあなたの車で真鍋智彦のアパート
を訪ねた。別荘からだと約1時間掛かりましたね?
女性客 :・・・
刑 事 :真鍋とは5年ほど前に恋人関係にあった。短い期間で別れ
たものの、最近再会した。そして真鍋は金づるとばかりに
あなたをゆすってきた。これは真鍋をよく知るチンピラか
ら直接聞きました。
女性客 :・・・
刑 事 :あなたは真鍋殺害を計画し、あの夜犯行を実行した。
頭部打撲による脳挫傷、直接の死因は鋭利な刃物により心
臓を一突き・・・普通は心臓を狙っても素人は外すんです
よ。思ったより体の中心にあるもんでね。でもその犯人は
まるで人体図を見て刺したかのように正確です。
女性客 :(枯れた声で)私には・・・アリバイがあります・・・
刑 事 :そう、あなたは完璧にアリバイ工作をしました。時間を逆
行させたのです。
女性客 :・・・
刑 事 :犯行を終え、別荘に帰ってきたのが午前3時くらいでしょ
うか。あなたはそれから急いで、別荘中の時計を全て4時
間遅らせたのです。そしてまだ十分車の中で熟睡してる伊
藤さんを、まさに今到着したかのように起こす・・・ただ
しここであなたは1つだけミスを犯してる。遅らせてはい
けない時計まで遅らせたのです・・・
女性客 :(驚き)遅らせてはいけない時計!
刑 事 :3時で止まった時計の針まで・・・その後何時間かは婚約
者と楽しい時間を過ごしたのです。でもまだ睡眠薬が効い
ている伊藤さんは再び眠りに陥った。それを見計らっても
う一度、今度は本当の時間に全てを戻したのです。
(PLAY5)
女性客 :嘘よ・・・
刑 事 :別荘の古い時計の針からあなたの指紋が検出されました。
そのトリックを証明するのにもう1つあります。霧です。
女性客 :霧・・・
刑 事 :伊藤さんはこう証言してます。着いた時から霧につつまれ
まるで別世界のようだったと。でもあの日霧が発生したの
は午前2時からなんです。海上気象台の記録にありました。
11時には霧はまだ出ていなかったのです。
女性客 :・・・
刑 事 :そして犯行直後にマスターに電話しましたね。時計を忘れ
たと。そして伊藤さんの目の前でもマスターに電話をして
る振りをする。すると後で二人の証言が合うことになりま
す。こうしてあなたは見事に4時間のタイム・ラグを作り
あげました・・・そう、見事に・・・
女性客 :駄目よ・・・
刑 事 :ん?
女性客 :今のは全て状況証拠だけだわ。私個人を確定するものが無
いわ。
刑 事 :犯罪にお詳しいですね?
女性客 :そんなこと、常識で考えても判ることだわ。時計の指紋だっ
て掃除をしたのが私なら・・・
刑 事 :そうです。今のは全て状況証拠です・・・
女性客 :そらごらんなさい。
刑 事 :この事件を調べる中で、実はあなたの経歴を全て調べさせ
て貰いました。
女性客 :私の経歴を?
刑 事 :はい、勝手に調べてすみません。あなたは九州の高千穂町
という所でお生まれになってる。お父さんは会社を経営し
ていたが失敗して、自殺なさってる。その後家が火災にあ
い、あなたのご家族は相当金銭的苦労をなさってる。実は
九州のあなたのお母さんにも私、会ってきました。
女性客 :母に!
刑 事 :いやあ、いいお母さんだった。今年で還暦を迎えられるそ
うですね。嬉しそうにしていましたよ、あなたのご婚約を
・・・
(PLAY6)
女性客 :母が・・・(動揺)母が・・・
刑 事 :あの子にはとても苦労を掛けたって、すまなそうに・・・
女性客 :(思い余って)母には!
刑 事 :まだ何も話してません。
女性客 :(しまったと思った瞬間もう観念する)優秀な刑事さんで
すもの、決定的な物的証拠ももう用意されてるんでしょう
ね。
刑 事 :・・・
女性客 :教えて下さい。なんですか?
刑 事 :皮膚細胞です。ガイ者の爪の間から本人と違う細胞が検出
されてます。おそらく最後にもがいた時に加害者の腕を必
死に掴んだんでしょうなあ・・・DNA検査をすれば、お
そらく・・・
マスター :華子さん・・・
女性客 :華子って名前だけど、ちっとも華やかな事なんて、私の人
生でなかった・・・
刑 事 :華子さんの華は、華々しいという字だったんですね。
女性客 :ええ、でも母と苦労ばかりしてきました・・・
マスター :辛かったのですね。
女性客 :やっと、生まれて始めて幸せになれるチャンスが来て、あ
まりに大きいチャンスに少しためらったけど、あの日マス
ターの言葉で決心が・・・
マスター :(以外にと)私の?
女性客 :幸せは、自分で作るものだと・・・
マスター :あ・・・
女性客 :ごめんなさい、マスターには何も責任はありません。
刑 事 :まだ、やり直せますよ。あなたはまだお若いし、頭もいい
じゃないですか。
女性客 :刑事さん・・・どうぞ、手錠を・・・
刑 事 :いや、困りましたな。私そそっかしくて忘れてきたみたい
だ。それに逮捕状も作ってないし、お手数ですが自首して
もらえませんか?
女性客 :刑事さん・・・ありがとうございます。
刑 事 :あ、ちょっと待って下さい。行く前にもう一杯だけ飲んで
いきませんか?このシンデレラ・ロードを・・・
おわり
シンデレラロード第3話
Story by ushi
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