シンデレラロード・第1話
婚約相手は神戸でも有数の実業家の御曹司。幼い頃から母と苦労だけで生きてきた香住華子にとって、それはまるで絵に描いたようなシンデレラストーリーだった。しかし婚約者との婚前旅行の夜、華子の運命を左右するシンデレラロードが用意されていた・・・(全3話)
Bar Cendrillon Series
《キャスト紹介》
男性客・伊藤寿浩(27才)・・・伊藤商事の御曹子。放蕩息子。
女性客・香住華子(24才)・・・看護婦。寿浩のフィアンセ。
マスター ・・・とても冷静でいて神秘的な女性。
(PLAY1)
S E ドアの開閉の音
マスター :いらっしゃいませ。
女性客 :こんばんわ、マスター。
マスター :お久しぶりです。
女性客 :マスター、紹介します。私の婚約者の伊藤寿浩さん。
男性客 :始めまして、伊藤です。
女性客 :始めまして。お噂はかねがね香住樣の方からお伺いしてお
ります。
男性客 :おいおい、変な事は言ってないだろうな?
女性客 :大丈夫よ。ねえマスター。
マスター :とても素敵な方だと何度となくお聞きしております。
女性客 :ねえ。
男性客 :そんな、素敵だなんてちょっとオーバーだよ。
女性客 :彼、照れてるんです。
男性客 :おい・・・
マスター :どうぞこちらへ。
女性客 :ありがとう。
男性客 :どうも。
マスター :お飲み物、何にいたしましょうか?
男性客 :俺はこの後運転するから・・・
女性客 :少しくらいなら大丈夫よ。ねえちょっとだけでも飲みましょ
うよ。
男性客 :そうだな・・・
女性客 :それにイザとなれば私が運転するわ。
男性客 :判ったよ。それじゃレッド・アイをお願いします。
女性客 :私はテキーラ・サンライズ。
マスター :かしこまりました。
(PLAY2)
女性客 :マスター、私達の結納の日が決まったんです。
マスター :それは、改めておめでとうございます。
男性客 :ありがとうございます。
女性客 :でも、私まだ夢を見ているようで・・・
男性客 :またそれを言う・・・
マスター :どうかしたのですか?
男性客 :いえ、彼女変な事を気にしてるんですよ。
女性客 :変な事なんかじゃないわ。
男性客 :いえね、その、俗に言う家柄だとか身分とかって、すぐに
口にするんですよ。
女性客 :変な事ですか。神戸の伊藤商事って言えば、マスターもよ
く知ってましたよね?
マスター :それはもう、伊藤商事の伊藤忠介樣と言えば神戸貿易の開
祖と言われるぐらい、神戸の貿易に貢献なさったお方。
男性客 :爺さんがどんな偉い事をしたのかと、俺が何をするかは別
問題だろ。
女性客 :ゆくゆくは彼が今の伊藤商事を継ぐのです。
男性客 :ああ、最近決めたんだけどな。
女性客 :彼、会社なんか継ぐ気はないと3年も家を出てたんです。
マスター :お気持ちが変わったのですね。
男性客 :ええ、それが彼女のお陰なんです。
マスター :彼女の?
男性客 :あれ、そのことはまだ話してなかったの?
女性客 :う、うん・・・
男性客 :説教されたんですよ俺、こいつに。
マスター :お説教を?
男性客 :ええ、こっぴどく。
(PLAY3)
男性客 :華子との出会いは僕が交通事故で入院した病院だったんで
すよ。
マスター :はい、それはお伺いしております。
男性客 :彼女は僕の病室の担当看護婦でした。入院と言っても足を
骨折しただけで後は健康体なんですよ。だから毎日が退屈
で退屈で・・・
マスター :判ります。
男性客 :2週間ほどでした。華子とよく喋るようになったのは、な。
女性客 :うん。彼はナースセンターでも話題だったんです。背も高
くハンサムだから若いナースの間で・・・
男性客 :ほんとか?
女性客 :本当だってば・・・だから彼と親しくしたら他の同僚から
なんか言われないかと思って、最初の内は・・・
男性客 :担当のくせに妙に無視するもんだから、よけい喋り掛けた
くて・・・そのうち喋ってくれるようになり、だんだんと
会話がはずむようになっていった。
女性客 :うん。
男性客 :僕はあまり家の事は他人に話さない方だけど、彼女には全
部話したんですよ。家を飛出して放蕩な暮しをしてると。
すると、彼女に言われたんですよ。それは親に反抗してた
だ逃げてるだけだと。
女性客 :だからあの時はそんな有名な会社の跡取り息子だなんて知
らなかったから・・・その辺の町工場かなんかのドラ息子
くらにしか思わなかったのよ・・・
男性客 :基本的には一緒だよ。一見カッコ良く見えるけど、親の実
績を超えられる自信がないだけだとも言われちゃったんで
す。
女性客 :ごめんなさい、あの時は・・・
男性客 :いいんだよその通りだったんだから・・・
(PLAY4)
男性客 :彼女に言われて眼が覚めたんですよ。よし、祖父と親父が
残した実績を俺が越してやろうって・・・
マスター :そうですか。
男性客 :そう思ったとたん、エネルギーが漲って来て、退院を待た
ずに実家に帰りましたよ。親父とお袋、驚いてたな。
女性客 :そりゃそうでしょ。3年も家を空けてた息子が急に帰って
来たんだから。
男性客 :それも更正して会社を継がしてくれ言ったもんだから、二
重にびっくり。お袋なんか泣いて喜んでた。
マスター :よかったですね。
男性客 :それも全部華子のお陰ですよ。誰がなんと言っても聞かな
かった僕を更正させた女性だから結婚話も即OK。
女性客 :この間私の田舎に挨拶に来てくれたんです。
マスター :そうですか。
男性客 :挙式は来年の春に決めました。
マスター :その時は私にもぜひお祝いをさせてください。
女性客 :きっとたくさんの人が来てくれるのよね・・・
男性客 :ああ、家は親戚が多いし会社関係もあるし・・・どうした
んだ華子?
女性客 :そんな偉い人達ばかりの中で、私をあなたにふさわしいっ
てみんな思ってくれるかしら?
男性客 :心配ないって言ってるだろ。
女性客 :学歴も家柄もない私を・・・
男性客 :そんなの関係ないって。そんなこと言えば俺も周りに威張
れるような経歴なんて1つもまだないんだから。
マスター :そうですよ、華子さん。結婚は二人のこれからのスタート
なのです。スタートだから何もいらなくていいのですよ、
ただお互いを愛し合う心と信頼があれば、後は幸せは自分
達で作っていくものですから。
男性客 :そうだよ!
女性客 :幸せは自分で作る・・・
(PLAY5)
男性客 :今日これから六甲山にある別荘に二人で行くんです。
マスター :そうですか。
男性客 :昔祖父達が住んでたんですけど、街から遠いので今は別荘
代わりにしてるんです。1度華子が行ってみたいと前から
言ってたものですから、この週末にと・・・
マスター :今日から3日間?
男性客 :ええ、そこで二人で将来の方針をミーティングしてこよう
と思います。
女性客 :マスター今何時かしら?
マスター :10時を少し回ったところです。
男性客 :そろそろ行くか?
女性客 :じゃこれ飲んじゃったらね。
男性客 :俺はもういいよ。
女性客 :ダメよ、これは二人のお祝いにとマスターが作ってくれた
特別のカクテルなんだから。
男性客 :そういえばきれいな色だな。なんて名前なんですこれ?
マスター :シンデレラ・ロードと申します。
男性客 :カッコイイ名前だな。
女性客 :味だって最高よ。
マスター :でもご無理なさらなくても・・・
男性客 :いいえ、いただきます。(飲む)うまい。マスターお心添
えありがとうございました。
マスター :恐縮でございます。
男性客 :さあ、行こうか・・・あっ。
女性客 :大丈夫?
S E グラスの割れる音
男性客 :あ、すみません・・・
女性客 :いいえ、私の肘があたったんです。ごめんなさいマスター
、きれいなグラスが・・・
マスター :いいえ、それよりお怪我の方は?
女性客 :大丈夫です。
(PLAY6)
S E ドアの開閉の音
マスター :大丈夫でらっしゃいましたか?
女性客 :ええ、助手席に入ったらダウンしました。もともとお酒飲
めない人なんです。
マスター :無理におすすめして申し訳ありませんでした。
女性客 :いいえ、お礼を言わなければならいのは私の方です。
マスター :お礼?
女性客 :さっきマスターの言葉で、私勇気を持てました。
マスター :?
女性客 :幸せは自分で作るものだって・・・
マスター :そうですか。
女性客 :決心がついたんです、私。これまでの私は、幸せからは本
当に縁遠い人間だと考えてきました。ひょっとするとこの
始めてきたチャンスもみすみす見逃していたかもしれませ
ん。でも、マスターの言葉で決心がついたんです・・・
幸せになろうと、誰にも邪魔をされず、自分の力で・・・
マスター :邪魔をされず?
女性客 :いえ、言葉のアヤです。
マスター :がんばって下さい。
女性客 :ありがとうマスター。
マスター :お車の方、大丈夫ですか?
女性客 :私は平気、九州オナゴですから。
マスター :そうですか。
女性客 :じゃマスター、行ってきます。
マスター :行ってらっしゃい。
マスター(N):そのときの華子さんの笑顔に、この後の悲惨な事件が
どうして想像出来ましたでしょう。華子さんの言葉の片隅
に私が、もし気付いていれば・・・刑事さんが訪ねて来ら
れたのは翌週のことでした・・・
つづく
シンデレラロード第1話
Story by ushi
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