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残り香の記憶(前編)

one_shot_16.jpg男は数年前に自分の前から消え去った女を探し求める。手掛かりは当時女がつけていたプールムッシュという香りのみ。しかしその香りの名前から以外な事実が浮き彫りになる・・・

 

 

 

《キャスト紹介》

男性客・・・
年齢24才。営業マン。
地方人特有の素朴さ、純情さがある。
過去の女を探している。

女性客・・・
キャリアウーマン風都会っ子。
機知とユーモアがある。
 好奇心旺盛。行動派。

マスター・・・

 


(PLAY1)

S E ドアの開閉の音

マスター :いらしゃいませ。
女性客    :こんばんわ、マスター。
マスター :お久しぶりです。
女性客    :むし暑くなってきましたね。
マスター :そうですね。お飲み物は、何になさりますか?
女性客    :そうね、ジン・フィズをもらおうかしら。
マスター :かしこまりました。


          S E ドリンクを作る音。


マスター :お待たせしました。
女性客    :ありがとう。(一口のみ)ああ、おいしい。
男性客  :(呟くように)間違いない、この香り・・・     
      (感慨深げに)この香りだ・・・
      (女性客に切羽詰まった感じで)すみません・・・
女性客    :はい?
男性客  :その香り、あなたがつけている、その今の香水・・・
女性客    :あら、ごめんなさい。ちょっときつすぎたかしら・・・
男性客  :いいえ・・・
女性客    :失礼よね、やっぱりこういうお酒を頂く場所では。
男性客  :いや、そうじゃないんです。
女性客    :え?
男性客  :その香水の名前、教えてもらえませんか?
女性客    :それって、始めて会った女性を会話に誘う口実?
男性客  :(じれったい)いや、そんなんじゃありません。
      僕はただ、その香水の名前を知りたいだけなんです。
女性客    :なーんだ。わたしにじゃなく、
      わたしがつけてる香水に興味があるわけか。
男性客  :あ、ごめんなさい。失礼しました。
女性客    :そんな簡単に謝られると弱いのよ、わたしって。
マスター :彼女がつけてる香りに、何かわけでもありそうですね。
男性客  :はい・・・


(PLAY2)


男性客  :自己紹介もしないで、変なこと聞いてしまって
      申し訳ありません。僕は島田と言います。
女性客    :冗談よ、気にしないでよ。判ってたわ。
      でも、あまりにも表情が真剣だったから、つい。
      あなたみたいに素朴で素直な人見たら、
      からかいたくなっちゃうのよ。ごめんなさい。
男性客  :いいえ・・・
女性客    :わたしがつけてる香水の名前を知りたいのね。
男性客  :はい。
女性客    :プール・ムッシュって言うのよ。
男性客  :(噛み締めるように)プール、ムッシュですか。
女性客    :そう、シャネルから出ているの。
男性客  :シャネル。シャネルと言えば有名じゃないですか。
女性客    :ま、一応。
男性客  :じゃ、どうして見つからなかったんだろう・・・
女性客    :あなた、この香りを探していたの?
男性客  :そうなんです。
女性客    :意味深ね。でも、間違いないの?
男性客  :ええ、臭いには敏感なんです。
      でも、一応もっとよく確かめさせてもらえませんか?
女性客    :ええ、いいわよ。


            S E バッグから香水入れを取出す音


女性客    :はい、どうぞ。
男性客  :こういう、入れ物に入ってるんですか?
女性客    :それはアトマイザーって、携帯用の容器よ。
      あ、だめよ、直接手にかけちゃ。
      貸してみて・・・香水ってのはね、
      こうやって一度コットンに染み込ませて、
      ワンクッションおいて肌につけるの。
      その方が香りがソフトになるのよ。
      それでそのコットンは洋服ダンスとかバッグに入れておくの。
男性客  :(感心して)へー。
女性客    :どう、その香り?
男性客  :・・・うん、間違いない。この香りです。


(PLAY3)


男性客  :でも、どうして有名ブランドなのに
      判らなかったんだろう・・・
女性客    :それは・・・限定販売だったからよ。
男性客  :限定販売!
女性客    :そう、数が限られた商品なのよ。
男性客  :(納得)あー、そうか。限定販売・・・
女性客    :納得した?
男性客  :はい、しました。
女性客    :だったら、そのいきさつをよければ聞かせてよ。
男性客  :いきさつ?
女性客    :ええ、あなたがそんなにしてまで探し求めていた
      プール・ムッシュのいきさつ。教えてあげたんだから、
      聞かせてよ。
男性客  :(困る)はあー。
女性客    :好きだった女性がつけてたんでしょ。
男性客  :はい・・・
女性客    :でもその女性はもういない。別れたんだ?
男性客  :別れたというか・・・
女性客    :振られたの?
男性客  :振られたのかなあ・・・
女性客    :とにかくいなくなったんだ。
      でも、もう1度会いたいから探してる。
男性客  :そうなんです。
女性客    :いつから?
男性客  :3年前です。
女性客    :つき合っていたの?
男性客  :3ヶ月間暮らしていました。
女性客    :暮らすぐらいなら、香水以外にも色々手掛かりがあるでしょ。
男性客  :それが、名前以外は知らないんです。


(PLAY4)


男性客  :僕がまだ大学生で神戸に下宿していたときでした。
      僕は実家が愛媛の三沢というところで、
      今の勤めも地元市内なんです。
女性客    :じゃわざわざ探しに来てるわけ?
男性客  :いいえ、出張です。
      大阪神戸にうちの会社は出張が多くて、
      今回も1週間の滞在なんです。
      それで神戸に来る度にこういう彼女が好きそうなお店を・・・
女性客    :そう・・・
男性客  :彼女との出会いはほんと偶然のようなものでした。
      アルバイトをして帰りが遅くなった晩、
      夜道に彼女が立っていたんです。
      その様子が今にも何か消え入りそうで、
      もの哀しかったから・・・
女性客    :それで声を掛けてあげたの?
男性客  :ええ、それまで田舎者の僕なんか、
      知らない女性に声を掛けたことなんか1度もなかったけど、
      そのときは妙に自然と出来たんです。
      それで、近くにあった喫茶店に二人で入りました。
      でも、僕は何を喋ったらいいのか判らなかった。
      そこで僕が知ったのは、彼女が霧野静という名前で、
      僕より3つ年上だということでした。
女性客    :霧野静さん・・・それでどうなったの?
男性客  :彼女は帰る所が無いと言うもんだから・・・
女性客    :あなたのお部屋に誘ったのね。
男性客  :誤解しないでください。変な気はなかったんだから。
      僕は友達の下宿へ泊まりに行こうと思ってました。
女性客    :ほんとうかしら?
男性客  :ほんとうです!・・・
      (言いにくそうに)だって、僕はまだその時、
      その、女性経験が無かったですから、
      そういう時の対応能力に自信が無かったんです。
女性客    :(吹き出す)対応能力ね、じゃあなたは紳士的すぎる態度で、
      その可哀相な彼女に部屋だけを提供してあげたのね。
男性客  :いいえ。
女性客    :え?
男性客  :彼女と夜を過ごしました。
      彼女が、彼女が一緒にいてほしいって言ったものですから・・・


(PLAY5)


男性客  :その後彼女は、僕の部屋にしばしば来るようになりました。
            気がつけば洋服ダンスの服が、僕のより多くなってました。
女性客    :ふうん。
男性客  :僕にとって彼女は大人の女性としての魅力が充分ありました。
      容姿だけでなく、性格、話し言葉、経験すべてが。
女性客    :年上の女性の魅力か・・・
男性客  :彼女と暮らすようになって、
      自分が変わっているのがはっきり判りました。
      最初は気後れしていたのですが、
      だんだんと自分の自信となって、
      これまで割と消極的だった性格も積極的な方へ。
      外見も彼女に言われてお洒落をするよう
      になったら、女友達も出来るようになりました。
女性客    :男も女次第で変わるか・・・
男性客  :彼女は僕の自慢でもあり、
      もうかけがえのない人になっていました。でも・・・
女性客    :でも、どうしたの?
男性客  :でも、いつもとても不安だったんです。
女性客    :なぜ?
男性客  :彼女と僕はとても不釣り合いだった。
      彼女は魅力ある大人の女性、僕は社会経験もない子供でした。
      周りも言ってたし、自分でも感じてました。
      それに彼女は、自分の身の上話をあまりしてくれませんでした。
      だからいつも一緒にいる自分の彼女という感覚はなく、
      とても存在自体が不思議で、不安だったんです。
女性客    :なるほどね。
男性客  :そして僕の不安通り彼女は、
      突然に僕の前からいなくなりました。
      ある日大学から帰ってみると、彼女の身の回りの物が
      全て部屋から無くなっていたんです・・・     
女性客    :形の無い、その香りだけを残して・・・
男性客  :もう探しても見つからないと直感的にそう思いました。
      そう思いながらも、気がつけば僕は街を彼女を
      探してさまよい歩いていました。


(PLAY6)


女性客    :プール・ムッシュの香りだけを残して去って行った女か、
            香水は間違いないのね?
男性客  :それは絶対自信があります。
女性客    :どう思いますマスター。
マスター :捜し出すにはちょっと手だてが少なすぎますね。
男性客  :はい・・・
女性客    :手掛かりは名前が霧野静ということと、年齢が今じゃ・・・
男性客  :27、だと思います。
女性客    :他には?
男性客  :とくには・・・
女性客    :お勤めなんかは?
男性客  :僕と一緒にいる間は働いていた感じはありませんでした。
マスター :でも・・・
女性客    :なんですか、マスター?
マスター :その彼女のお名前が、少し気になりますね。
女性客    :マスターもそう思ってました。
マスター :ええ。
男性客  :どういう事ですか?
女性客    :ひょとして捜し出せるかもしれないわよ。
男性客  :本当ですか!?
女性客    :実際捜し出す事はわたしには出来ないから、もしよければ
      探偵さんをご紹介するわ。
男性客  :探偵・・・
女性客    :わたしの従兄弟が私立探偵をしているの。
男性客  :お願いします。
女性客    :神戸の滞在はいつまで?
男性客  :1週間です。
女性客    :見つからなくても気を落とさないでね。
男性客  :お願いします。


つづく


残り香の記憶(前編)
Story by ushi


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