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残り香の記憶(後編)

one_shot_16.jpg男は数年前に自分の前から消え去った女を探し求める。手掛かりは当時女がつけていたプールムッシュという香りのみ。しかしその香りの名前から以外な事実が浮き彫りになる・・・

 

 

 

《キャスト紹介》

男性客A・・・
探偵。ハードボイルドになりきれないソフトボイルド。

男性客B・・・
年齢24才。営業マン。
素朴で、純情。過去の女を探している。

マスター・・・

 

 

(PLAY1)


                     S E ドアの開閉の音


マスター :いらっしゃいませ。
男性客A :失礼ですけど島田さんでしょうか?
男性客B :はい。ではあなたが・・・
男性客A :探偵の木島です。従姉妹を通じてご依頼を頂きました。
男性客B :どうもありがとうございます。なにかお飲み物を。
男性客A :そうですね、じゃマスター水割りをください。
マスター :かしこまりました。


           S E ドリンクを作る音


マスター :お待たせしました。
男性客A :ありがとう。
男性客B :それで・・・
男性客A :ええ、詳しいお話しは僕の従姉妹の春香から聞きました。
      最初難しいご依頼だと思い、お断りしようと思ったんです。
      なにせ探すにもお名前しかわからない。
男性客B :すみません。
男性客A :それとプール・ムッシュというコロン・・・
男性客B :(すまなそうに)そうなんです・・・
男性客A :たぶん私一人じゃお手上げだったことでしょう。
男性客B :・・・
男性客A :でも、従兄弟の春香とここのマスターの協力が
      あったから、でも女性の感とは凄いものだと思いました。
      正直言って私は自信をなくしました。
男性客B :(歓び)それじゃ・・・マスター、
      ありがとうございました。
マスター :いいえ、私はなにも・・・
男性客B :それで、彼女は今どこに・・・
男性客A :(言いにくそうに)それが、
      そう喜んでもらっては言いにくくなるな・・・
男性客B :え、一体どういうことです・・・
男性客A :その前に、もう一杯いかがですか?


(PLAY2)


男性客B :(驚き)まさか!・・・彼女が死んでたなんて・・・
男性客A :お気の毒です・・・
男性客B :なんていう事だ・・・信じられない。静が・・・
男性客A :あなたのお気持ちはお察しします。
男性客B :彼女の亡骸は今どこに?
男性客A :それは、ご遺族のご要望でお教えすることはできません。
男性客B :どうして?
男性客A :詳しくは私もわかりません、ただそういうことでした。
男性客B :死因は、なんだったんです?
男性客A :血液の、癌です。
男性客B :そうですか。
男性客A :彼女は最期にこう言って亡くなられたそうです。
      もし私が死んで、島田という男の人が私を探しに
      来たとき、これをその人に渡して欲しいと・・・
男性客B :こ、これは・・・
男性客A :ええ、彼女が生前愛用していたコロンです。
男性客B :プール、ムッシュ・・・
男性客A :ご遺族の方からお預かりしてきました。
男性客B :ああ、この匂い間違いない、彼女の匂いだ・・・
      確かに彼女がいる・・・
男性客A :あなたの記憶に間違いありませんでした。
      たいしたもんです。
男性客B :静・・・どうして死んだりしたんだ・・・
            どうして僕の前から消えてしまったんだ・・・
マスター :きっと静さんは最期まであなたを
      愛していたからだと思いますよ。
男性客B :マスター・・・
男性客A :マスターの言ったとおり、
      彼女は最期まであなたを愛していた。
      だからこそあなたの前から姿を消した・・・


(PLAY3)


男性客A :これは私の推理ですけど。
      静さんはあなたと会ったとき自分の病気が不治の
      病であることを知った直後じゃなかったんでしょうか。
男性客B :そうか、あのときの表情は死への恐怖だったんだ。
男性客A :ええ、だから彼女は知人に会うことを避け、
      恐怖を忘れようとあなたと楽しい時間を過ごしたかった。
男性客B :じゃなにも僕でなくても・・・
男性客A :最初はそうだったかも知れませんが、
      やがてあなたのことを本当に愛したんです。
男性客B :そんなに愛してくれていたのなら、
      どうしていなくなったんです。
マスター :死に行く自分の醜いかもしれない姿を、
      見られたくなかったのじゃないでしょうか。
      それと、これから社会に出ていくあなたの
      邪魔になると考えたのかもしれません。
男性客A :私もマスターの考えと同じです。
      それが愛する人への本当の愛の姿ではないでしょうか?
男性客B :愛の姿・・・
男性客A :身を引く愛、自分本意では決して
      出来る事ではありません。
男性客B :マスター、もう1杯だけ作ってもらえますか。
マスター :同じものを?
男性客B :そう、X・Y・Z・・・
      彼女が最初に教えてくれたカクテル。
      今その意味が始めて判りましたよ。
      これ以上後がない・・・
      生きることの最期という意味だったんだ・・・
男性客A :そしてあなたが最後の人という意味も・・・


(PLAY4)


男性客B :どうもお世話になりました。最終便で松山へ帰ります。
男性客A :そうですか。
男性客B :マスターにもお礼を言います。ありがとうございました。
マスター :お気を落とさないで、頑張ってください。
男性客B :はい。最後にマスターに作ってもらったX・Y・Zで
      少しは元気になりました。
      それと静からもらった本当の愛を自信にして、
      彼女が生きたかった分も僕が生きます。
      本当に色々ありがとうございました。
マスター :お元気で・・・
男性客B :(わざと大きな声で)さようなら。


          S E ドアの開閉の音


男性客A :(先程の落着いた様子とはガラリと変わり)
      もう、嫌だ!
マスター :どうされましたか?
男性客A :僕は探偵失格です。今日を限りに探偵を辞めます。
      憧れてなった職業だけど、やっぱり僕にはむきません。
マスター :どうしたんですか?
男性客A :マスター、今の男いい奴ですよ。
マスター :そうですね。
男性客A :あいつの気持ち、痛いほどわかりますよ。
      元気な振りして出ていったけど、
      こらえ切れない涙で歩いてるんですよ。
            純情で一途なんですよ。痛いほど判るんですよ。
      いなくなた彼女のイメージを思って、
      何年でも探し歩く奴なんですよ。それなのに・・・
マスター :それなのに?
男性客A :そんな奴に事実を言えなかった・・・
マスター :事実を言えなかった?
男性客A :彼に僕は嘘をつきました。
      探偵という職業は本来ありのままの事実を
      クライアントに報告するのが仕事です。
マスター :嘘、だったんですか?
男性客A :ましてや、死んだなんて・・・
マスター :では・・・
男性客A :彼が探していた女性は生きてます。ピンピンしてますよ。


(PLAY5)


男性客A :春香ねえさんとマスターが霧野静という名前が
      あまりにも出来すぎてるんじゃないかという推測どおり、
      彼女は北野で一時「モンロー」という
      店のママもやっていたそうです。
            もちろん霧野静は源氏名で、本名は山口康子。
      マスターが紹介してくれたナイトスポット専門の
      求人誌の支社長が名前を言えばすぐ教えてくれました。
      さすが蛇の道は蛇ですね。
マスター :そうですか。
男性客A :問題となったプール・ムッシュは実は男性用コロン。
      普通女性はつけない。だから見つけにくかったわけだ。            マスターも初めから知っていたんでしょ。
マスター :ええ・・・女性が男性用の香りをつけるのは、
      自分の愛しているその香りの男性と常に
      一緒にいたいと思う気持ちから・・・
男性客A :浮気のカモフラージュ、夜の女の子の間での流行、
      その真意は判りませんが、そのプール・ムッシュの
      女はかなりの男の間をテンテンと渡り歩いてたようですよ。
      ムッシュはフランス語で男性。
      男性をため込む女。
      そんな意味合いを誇らしげにしてた感じも匂いますね。
マスター :それで、今は?
男性客A :ちゃっかり、いい金持ちを見つけて結婚してました。
      僕が訪ねて行った時も、自分の過去を色々知ってるもんだから、
      てっきりゆすりだと思ったみたいです。
      島田さんの話をしても彼女、全然覚えていませんでした。
      とにかく帰ってくれの一点張りで。
マスター :そうですか。
男性客A :男から捨てられて、行く宛の無かった時偶然声を
      掛けられたのが島田さんだった。
      そして次のいい男を見つけるまでの繋ぎの場だった、
      というところが本当じゃないですか?
マスター :そうかもしれませんね。
男性客A :そして、最後にそのコロンを僕に渡して彼女は言いました。
      むかしのわたしは死んだ事にしてちょうだいと・・・


(PLAY6)


マスター :そうでしたか。嫌な目に合われたのですね。
男性客A :いえ、もう嫌な目には慣れていましたが、
      今回の依頼者にはどうしても事実は報告できなかった。
      実は僕にも苦い経験がありますから。
      昔の好きだった女性に会いに行ったら
      とんでもなく変わっていてガッカリしたという。
マスター :誰にでも、1度はあるんじゃないでしょうか。
男性客A :人間良かった記憶って、その事実より時間の経過の中で
      美化しちゃうんですよね。
マスター :そうですね。
男性客A :もし島田さんに彼女の事実を教えれば、
      傷つくことは目に見えている。
      それよりも霧野静という彼が作りあげた女性の思い出を
      大切にしてあげたかったんです。
マスター :醜い事実を知るより、美しい偽りを信じる方が
      幸せなこともあるんですね。
男性客A :そのとおりです。
      今の時代は情報、情報と言ってなにがなんでも
      あった事実だけが重要で、そこから起きる人間の感情だとか、
      悲劇まで考えなくなってしまってる。
マスター :思いやる気持ちが希薄になってるのかもしれませんね。
男性客A :相手の知らないでいいところまで知って、
      不幸になっていく人が多すぎます。
      知らなければ、幸せなものを・・・ 
マスター :悲しいですね。
男性客A :事実を報告するのがプロの探偵なのに、僕は出来なかった。
      だから僕は探偵を廃業するんです。
      やっぱり僕は今の時代じゃダメなのかなあ。
マスター :探偵としてはダメでも、人間としては相手を思いやる
      大切な心をお持ちの方・・・
男性客A :無理に褒めないでくださいよ、マスター。
マスター :いいえ、私がもし探偵さんの必要が出来たなら、
      お客様のような探偵さんにぜひお願いしたいですね。
男性客A :本当ですか?
マスター :はい。
男性客A :よし、今夜は後戻りできない自分の岐路を
      じっくり考えてみます。
      だから僕にもアレを作ってください。
マスター :はい。X・Y・Zを・・・

 

おわり


残り香の記憶(後篇)
Story by ushi


 

タグ : 牛のドラマシアター ドラマ シナリオ 恋愛 ラジオドラマ バールサンドリオン 残り香の記憶

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