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ハンターバニッシュ

one_shot_1.jpg雨宿りに立ち寄ったBAR。カウンターに一人いる身なりの良い美女。雨が取り持つ縁だった。女は男の飲むグラスの液体を血の色みたいに綺麗ね、と言う。そして静かに殺人を誘いかけてくる...

Bar Cendrillon Series     >>> ラジオドラマとして聞く

 

 

 (PLAY1)


           S E ドアの開閉の音

マスター :いらしゃいませ。
男性客  :いやあ、まいった。よく降るなあ。
マスター :大丈夫ですか?
男性客  :少し濡れただけ。
マスター :よろしかったら、これを(タオル)お使い下さい。
男性客  :ありがとう。ああ、ハンターもらえますか。
マスター :かしこまりました。

           S E ドリンクを作る音

マスター :どうぞ。
男性客  :どうも・・・(小声で)マスター、マスター・・・
マスター :はい。
男性客  :あそこの女性、待合せかな?
マスター :さあ、どうでしょう。
男性客  :よく来る人?
マスター :時折、お見えになられますが・・・
男性客  :そのときは、誰かと一緒に?
マスター :さあ、どうでしたでしょう。
男性客  :全く口が固いんだからマスターは。よし、どうせ今日はも
      う雨に降られた後だ、ダメでもともと・・・(一つ咳払い、
       席を立つ様子で)あのー・・・お一人でしょうか?
女性客    :ええ・・・
男性客  :よろしければ、ご一緒してもいいですか?
女性客    :(あっさり)ええ、どうぞ。
男性客  :(意外)え、いいんですか本当に?
女性客    :どうぞ。
男性客  :やった。マスター、すみませんこっちへ。
マスター :かしこまりました。
男性客  :いやあ、てっきり断られると思いました。
女性客    :どうして?
男性客  :その、雰囲気が・・・
女性客    :そんなに鼻の高い女に見えまして?
男性客  :とんでもない、その、なんて言うか、近寄り難いほどの美
      人って言うじゃないですか。
女性客    :いいのよ、私もちょうど話し相手がほしかったところだか
      ら。


(PLAY2)


男性客  :お待合せじゃなかったのですか?
女性客    :いいえ。
男性客  :そうですか。さっきまでは外の雨が嫌だなあって思ってた
      のに、こうなるとそんなこと全然気にならない。人間って
      単純ですよね。
女性客    :雨の取持つ縁ね。
男性客  :(ちょっと嬉しい)そうですよね。縁なんだ、うん。
            月並みだけど乾杯しませんか?
女性客    :ええ。

         S E グラスを合わせる音

女性客    :きれいな色ね、それ何?
男性客  :ハンターです。
女性客    :マスター、私も同じもの作ってくださる。
マスター :かしこまりました。

         S E ドリンクを作る音

マスター :お待たせしました。
女性客    :(一口飲み)おいしい。
男性客  :でしょう。
女性客    :色がいいわ。まるで血の色みたいで。
男性客  :やめてくださいよ。僕は苦手なんですよ、そういうのは。
女性客    :そうなの?
男性客  :ええ。話題を替えましょう。今お一人ですか?
女性客    :ええ。
男性客  :(意外)結婚されてないんですか?
女性客    :結婚はしたわ。
男性客  :離婚ですか?
女性客    :いいえ。
男性客  :じゃ別居?
女性客    :いいえ。
男性客  :結婚してて離婚でもなく別居でもなく、ご主人と一緒じゃ
      ない。判った、単身赴任。
女性客    :いなくなったのよ。
男性客  :いなくなった。失踪?
女性客    :殺されたんじゃないかと思うの?


(PLAY3)


男性客  :ちょっと待ってくださいよ。ご主人なんでしょ?
女性客    :そうよ。
男性客  :それなのに、そんなシャアシャアと殺されたなんて。
女性客    :主人は会社を幾つか経営してて、その強引な性格に敵は確
      かに多かったわ。(憎むように)わがままで強引で身勝手。
男性客  :それにしても殺されたなんて。
女性客    :もういなくなってかなりになるわ。
男性客  :・・・
女性客    :普通で考えたら・・・
男性客  :きっと何かの理由で姿を隠してるだけですよ。
女性客    :あの人はそんな性格じゃないわ。妻の私が一番知ってる。
男性客  :でも、仮にもし最悪の事態だったとしても、何かあるはず
      でしょう。そんな殺人の完全犯罪なんて小説じゃあるまい
      し・・・
女性客    :どうして?
男性客  :え?
女性客    :その気になれば出来ないことじゃないわ。
男性客  :殺人の完全犯罪をですか?
女性客    :そうよ。そんなこと、あなた考えた事ない?
男性客  :冗談を、そんなこと僕は・・・
女性客    :死体が無ければ、殺人事件になりようもないわ。
男性客  :死体が無ければって、死体を消すのですか!?
女性客    :へたに死体を隠したり、バラバラにしても見つかればおわ
      りでしょ?
男性客  :え、ええ・・・
女性客    :死体を跡形もなく消せば・・・
男性客  :そ、そんなこと・・・
女性客    :簡単な事だわ。


(PLAY4)


男性客  :簡単な事って、出来るんですか。
女性客    :ディスポーザーって、ご存知かしら?
男性客  :キッチンについてる・・・
女性客    :ええ、生ゴミ粉砕器。今はいいのが出てるのよ。コーラの
      瓶だって砕いてしまうくらい強力なやつが。
男性客  :やめてくださいよ!
女性客    :他の方法なら、夫の食品関係の事業部が新たに食品加工用
      機械を開発してて。その機械はまあ簡単に言えば、巨大な
      遠心分離器みたいなものなの。
男性客  :遠心分離器?
女性客    :その中に肉なんかを入れて作動さすと、液体と細胞が全く
      分離するの。
男性客  :・・・
女性客    :もっと簡単に言うわ。見たところあなたは身長175センチ、
      体重60キログラムというところね。
男性客  :あ、ああ・・・
女性客    :あなたぐらいの人間をその機械の中に入れ、その機械を作
      動させる・・・
男性客  :ウッ!
女性客    :体重の60から66パーセントが水分だから、あなただったら
      約36から40リットルの水分が出るわ。
男性客  :・・・
女性客    :血液量は、体重1キロにつき70から100ミリリットル。
      だからあなたの血液量は約4200から6000ミリリットル程ね。
      そのカクテルグラスだと、80杯くらい。色もちょうどそん
      な感じだわ・・・
男性客  :うわッ。
女性客    :水分を取られた他の細胞はサラサラの粉末状態になるのよ。
男性客  :・・・
女性客    :どうしたの、お顔の色が変よ。


(PLAY5)


女性客    :おわかりになったでしょ、死体を消すことなんていとも簡
      単なことだって。
男性客  :う、うん。
女性客    :液体と粉末になれば、後は海に流すなり、風に飛ばすなり
      して自然に帰してあげるだけ。
男性客  :そ、そうだね。
女性客    :マスター、もう一杯同じものお願い。とても気に入りまし
       たわ、この・・・
男性客  :ハ、ハンター・・・
女性客    :ええ、そのハンターを。
マスター :かしこまりました。


          S E ドリンクを作る音


マスター :どうぞ。
女性客    :ありがとう。うん、おいしいわ。どうしたの、もうお飲み
      にならないの?
男性客  :いいえ、飲んでますよ。
女性客    :それとね。
男性客  :はい。
女性客    :こんなことご存知かしら。
男性客  :ま、まだあるんですか?
女性客    :死体を消すのはいいんだけど、ちょっと困ったことが起き
      るのよ。
男性客  :そりゃあ困るでしょ、いろいろ。
女性客    :死亡届が出せないのよ。
男性客  :あ、ああ、そうですよね。死体が無けりゃ死亡の確認は 
      できませんよね。ハハハ・・・
女性客    :失踪した人を死亡と断定するのって、結構時間と手間が掛
       かるのよ。知ってて?
男性客  :いいえ、知りませんよ。
女性客    :裁判所から失踪宣告の確定っていう、ややこしい承認がい
       るの。
男性客  :お詳しいですね。
女性客    :それを邪魔する人がいるの。死んだ主人の顧問弁護士。


(PLAY6)


男性客  :弁護士?
女性客    :そう。どこにでもいるじゃない、融通の効かないへんに忠
      実な男ッて。
男性客  :え、ええ、そうですね。
女性客    :あなただってそんなとき思わない?
男性客  :え?
女性客    :消えて無くなればいいのにって。
男性客  :(恐怖の笑い)
女性客    :そうでしょ。あら、ちょっと失礼するけど待っててね。
      まだお話しの続きはあるから。これもきっと何かの縁よね。
      そこで待っててよ。すぐ戻るから。(席を立つ)
男性客  :(ガタンと席を立つ)マスター!
マスター :はい。
男性客  :よくそんな澄ました顔していられるね。
マスター :どうかされましたか?
男性客  :どうかじゃないよ、あの女、異常だよ。自分の亭主を殺し
      てるんだ。それで今度は、弁護士を殺そうと僕に話を持ち
      掛けてる。聞いてて判らないのかい?(ドア付近で)悪い
      けど僕は警察には届けない、関わりあって消されるのはご
      めんだから。
マスター :まだお飲み物が・・・
男性客  :悪いことは言わないから、関わりあっちゃいけないよ。

          S E ドアの開閉の音。

マスター :お客様・・・
女性客    :飛んで逃げたでしょ。
マスター :はい。
女性客    :あのお客でしょ、ここに来る女性客にやたら声掛ける奴。
      前に、マスター困った顔してたから。
マスター :ありがとうございます。
女性客    :あ、もうこんな時間か。そろそろ私も帰ります。本当にお
      いしかったわ、ハンター。
マスター :お客様。
女性客    :なに?
マスター :こんどいらっしゃる時は、ぜひ旦那樣もご一緒に。
女性客    :そうね。うまく二人とも当直が外れたときに。結構医者同
      士の共働きって、時間が合わないのよ。

 

おわり

 

ハンターバニッシュ
Story by ushi

 

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