竜二

1983年(昭和58年)。自主製作のインディーズ映画から一本の大ヒット映画が生まれた。自分で脚本を書き、主演し紆余曲折の末出来上がった映画だった。そして作った本人はその大ヒットの公開中に癌のために急死した。

主演俳優・金子正次は33歳で世を去った。

その伝説となった映画のタイトルは『竜二』。


『竜二』はいわゆるニューウェーブのヤクザ映画だと言われた。一度は自分の家庭のためにヤクザがその世界から足を洗い、堅気の生活をするというストーリー だ。竜二がヤクザの道に入ったきっかけは描かれてないものの、自分自身でその血を体の中に感じていたからだろう。それが証拠に、その消し難い血を再び自覚 した時、竜二はその世界に彼が持つ本能で戻っていってしまう。

ラストのシーンの金子正次と永島暎子はまさしくこれが映画だという演技を見せてくれる。

商店街の肉屋かなんかの前で娘と一緒に買い物をしている自分の妻をじっと見つめる竜二、ふとそれに気付く女。一筋の涙が光る、壮絶に哀しい表情でそこに立ち尽くす竜二。

その竜二のなんとも言えない表情にすべてを汲み取り、次第に目に光るものが浮かんでくる女。もう自分の元へは二度とは帰って来ないだろうと。画面から消音されたシーンの中、二人の心の動きが痛いほどに伝わってくる。このシーンを見るだけで、この映画の価値はある。

無言の二人の間で物語る。それはかの『ローマの休日』のラストをも彷彿させる。

竜二が去ったのを見届けた後、娘に向かって女が言う「おばあちゃんのところに戻ろうか」娘は「また全日空に乗れるの?」と無邪気に言う。それが余計に痛ましい。

とはいえ竜二になついていた娘だけれど、彼を恋しがるほどにはなっていなかったのかもしれないと思うと、余計に痛ましい。それはもう戻ることはない竜二に対しての痛ましさ。

ショーケンが歌う主題歌「ララバイ」が去っていく竜二の後姿にかぶり、いつまでも忘れられない。

映画『竜二』は、人間が持つ情動というものを見事に描いた映画だった。



花の都に憧れて、飛んできました一羽鳥。
ちりめん三尺ぱらりと散って、花の都は大東京。

金派、銀派のネオンの下で、男ばかりがヤクザじゃない。
女ばかりが、花でもありません。

六尺たらずの五尺のからだ、今日もゴロゴロ明日もゴロゴロ
寝さまようわたしにも、たった一人のガキがいました。

そのガキも今は無常にもはなればなれ。
一人淋しくメリケンアパート暮らし。

今日も降りますドスの雨。
刺せば監獄、刺されば地獄。

私は本日ここに力尽き引退しますが、
ヤクザモンは永遠に不滅です。



映画『竜二』・劇中竜二のモノローグより




タグ :

関連記事

  1. 異人たちとの夏
  2. 蛇にピアス

TOPPAGE  TOP